信用取引の手数料を無料にできる理由
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信用取引の手数料の無料化が進んでいる。
信用取引だけではなく、現物株取引の手数料を引き下げる証券会社も増えてきた。
もともとネット証券(ネット専業の証券会社)の手数料は、格安だったが、それがさらに拡大しつつある。
証券会社に今、何が起こっているのか。
株式売買手数料は、なぜ高かったのか?
まず野村證券や大和証券、日興證券などと言った三大証券の売買手数料は、割高だ。
売買代金の3%前後の手数料を取る場合もある。
というのもこれらの証券会社は、全国に店舗網を持っていて、社員数も多い。
株式上場企業と機関投資家、大口の個人投資家をつないでビジネスを行うため、大企業や大口投資家の多い全国の主要都市に支店を置き、それぞれに社員を配置する必要があった。
顧客と面談するための場所や、お茶を出すお茶くみ社員も必要だった。
顧客からの株の売買注文も電話で受け付けるため、大勢の電話オペレーターも必要だった。
そういった支店網を維持して、たくさんの社員に給料を支払うため、高い売買手数料を取っていたわけだ。
3%前後も手数料を取られたら、値上がり益より手数料の方が高くつくことも多いから、株売買は大変だったんだね。
ところが21世紀に入って、ネット証券が増えたため、近年は電話注文による株売買は減る一方。
お金持ちの顧客もドンドン天寿を全うして、顧客名簿から消えて行き、支店の統廃合も徐々に進んでいる。
店舗の統廃合は、銀行などが先んじていたが、証券会社もそういう風になってきている。
ネット証券が、取引手数料を格安に出来る理由
一方、ネット証券では、株の売買はパソコンとインターネットだけで完結する。
パソコンのWebサイトや、専用の取引ツール、スマートフォンの取引アプリなどで気配値や板情報を見ながら売買できる。
必要なのは、本社とデータセンターと、ヘルプデスクの電話オペレーターくらいのモノで、三大証券に比べてはるかにスモールビジネスが出来る。
今だったら、AWS(AmazonWebService)を併用したり、Microsoftアズーレを必要な容量だけ使うという裏技もある。
そのためネット証券では、従来の証券会社より手数料を格安に出来た。
そして手数料引き下げ競争が進んで、2010年代は手数料無料化に足を踏み入れ始めた。
たとえば殆どのネット証券で、一日合計10万円未満の売買では、手数料を取らなくなった。
また手数料無料範囲を、10万円から20万円に引き上げたり、30万円まで手数料無料にする証券会社も出てきた。
そして2019年後半くらいから、さらに手数料無料範囲が拡大され、信用取引やETF売買なら手数料無料というところまで出てきた。
2019年末にはSBI証券や楽天証券などのネット大手証券も、一日定額プランで50万円未満の手数料無料化に踏み切った。
証券会社が手数料を無料に出来る理由は、金利
手数料引き下げは、利用者にとってはうれしいことだが、タダほど怖い物はない。
証券会は、いったいどこで利益を取ろうとしているのだろうね。
証券会社は、ネット証券でも様々な固定費がかかるため、手数料無料化は収入減になる。
その収入減を、何で補おうとしているのか。
一つの候補としては、預かっている投資資金を運用して、そこから利益を得ることだ。
大企業の社債などの手堅い債券で運用すれば、1-2%くらいの利益は取れる。
ところが、アベノミクスのマイナス金利政策で、銀行も金利が下がって資金運用に困るご時世。
それくらいでは、手数料収入に替わる収入源にはならない。
そこで証券会社が考えたのが、信用取引の金利手数料だ。
信用取引というのは、お金や株券を借りて売買する取引で、金利手数料がかかる。
現在はだいたい年利2%から3%くらいなのだが、これを少し引き上げる。
そして小口の投資家より、大口さんの金利手数料を優遇し始める証券会社も増えた。
金利で儲けようと思えば、たくさん借りてくれた方が有り難いから、資金余力のデカい大口投資家さんを増やせば良いという作戦なんだろう。
大口投資家は、資産株の下落で損しないようにカラ売りでヘッジしたりする事も多いから、長期間、信用取引してくれる場合も多い。
たとえば相場師朗さんの「うねり取り」などは、カラ売りと信用買いの組み合わせで売買する。
そうなると、ほぼ一年中、金利手数料を払うことになるので、それが手数料の替わりになるというわけだね。
金利3%で、信用取引を1,000万円しておれば、金利手数料は30万円だから、結構な収入になるしね。